2010年05月01日

学士論文 第3章 第1節 政策の概況

第3章 社会的責任投資に関する日本の政策
第1節 政策の概況



 本章では、これまで述べた 公的セクターでは国際社会・各国政府・公的投資機関、民間セクターでは民間銀行・労働金庫等・コミュニティ金融とNPOバンク の各レベルにおける社会的責任投資の実態を踏まえて、日本の社会的責任投資に関する政策の実状を詳述する。そこから他国の状況との差異点を明らかにし、日本の特徴的な政策の実績と問題点を指摘する。


第1節 政策の概況

 先に挙げた英国・ドイツ・スウェーデン等の年金法改正の例とは異なり、日本において社会的責任投資の誘引を目的とする金融機関・一般企業向けの政策は明確な形では実施されていない。経済産業省では「ソーシャルビジネス」・「コミュニティビジネス」の振興政策は見られるものの、社会的責任投資に言及した政策・報告書・白書の類は出されていない。同省下の資源エネルギー庁の発行文書の中には、グリーン電力の導入事例として市民出資による風車運営の事例(第3章 第4節で取り上げた「コミュニティ金融」の一種に当たる)が言及されている程度であり、この文書が発行された2003年以降この分野の記述はない。また金融庁の文書中では、同庁とは独立した立場で発表されたとする研究論文と金融教育用の教材での記述がほとんどであり、社会的責任投資を推進する向きの動きは認められない。
 そのような中で唯一、環境省は社会的責任投資に関する多数の文書・会合記録を蓄積している。2003年に環境分野における社会的責任投資をテーマにした懇談会が開催されており、その時すでに発表者の民間保険会社社長より「社会的責任投資を促す政策」の必要性が提言されている。その後も社会的責任投資を直接テーマとした報告書が相次いで発表され、公開シンポジウムなどの企画もたびたび開催されている。さらに次節で述べるように実際に活動するコミュニティファンドをモデル事業として選定し支援を行ったり、その事業を報告するシンポジウムを民間企業とNGOとの協力のもとで開催するなどその成果を社会に発している。
 以上より、日本の政府機関としては特に環境省が社会的責任投資に関する政策で先行している状況である。ただし、環境・エネルギー分野に結び付いた形での社会的責任投資に限定して推進されていることが、特筆すべき点と言えよう。これは日本の人々が他の先進国の人々と比較して人権や貧困問題への配慮よりも環境面の配慮を重視する傾向があることと一致している()。他方、環境以外の分野、または金融一般について投資家に社会的責任投資を動機付けようとする政策は不在と言ってよい。これは日本の政策決定者・金融機関・企業にとって環境分野の貢献へは共通の価値認識が持たれている一方で*、人権や貧困問題などへの配慮は価値認識を共有するに至っていないことによると考えられる。後者への取り組みは各金融機関・各企業の任意によるべきと認識されている。

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Posted by 山本泰弘 at 02:10│Comments(0)学士論文(2010年)
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