2010年05月01日

学士論文 第2章 第4節 コミュニティファンド・NPOバンク

第2章 社会的責任投資の動向
第4節 「コミュニティファンド」・「NPOバンク」の出現



 個人投資家・預金者が一般的な金融機関に投資・預金をした場合、その資金は必ずしも地域の事業者などに貸し出されるわけではなく、大都市圏の事業を中心にその金融機関にとって利益になる方法で運用されるといった事態が生じうることをすでに指摘した。その代替策として個人のとれる方法には信用金庫・労働金庫への預金が挙げられるが、より直接的に出資者の意思を反映した投資の仕組みとして結果を重ねつつあるのが「コミュニティファンド」・「NPOバンク」である。

 コミュニティファンド・NPOバンクとは、特定分野の事業を行うことを目的として主に個人投資家から出資を募る金融形態である。
 コミュニティファンドとは、「特定の地域やコミュニティにおいて、あらかじめ合意された事業などの使途に対して、投資や融資を行うことを目的として設置され、運営される基金*」である。特定地域の課題解決・活性化につながる事業に対し、その地域の住民が少額出資をすることで成り立たせるものである。多くの場合、特定の事業*を行うことに賛同する出資者を集める。*
 NPOバンクは、「市民が自発的に出資した資金により、地域社会や福祉、環境保全のための活動を行うNPOや個人などに融資すること(全国NPOバンク連絡会*)」を目的とした市民セクターの金融組織である。市民からの出資金を事業者へ貸し出すという点で、コミュニティファンドに比べやや一般の銀行に近い。全国規模のものもあるが、多くはある地域を対象として事業・募債を行う。
 コミュニティファンド・NPOバンクともに 任意団体、貸金業、中間法人、投資事業有限責任組合などの形態をとっている。またそこから出資・融資を受ける主体はNPO・個人事業者・一般家庭*が主である。個人や民間企業からなる出資者と、資金を必要とするNPO・個人事業者との仲介を行う存在として地域事業を支えている。

 両者は目的・形態・機能などの面で共通する部分が大きい。その違いは、コミュニティファンドが事業者へ「出資(法的に事業者からの返済義務なし)」を行うのに対し、NPOバンクは事業者へ「融資(法的に事業者からの返済義務あり)」を行うという点である*。また前者は事業による収益・損益が出た場合ファンドへの出資者各個に配当がなされる。後者は事業者から融資が返済される際の利子を、各個出資者からの出資金への利子として分配する。ただしいずれも投資する事業の健全性を厳重に審査し、事業運営の支援も行うとしており、貸し倒れは低率であると報告されている*。

 これら出資・投資を一定の地域内で行い地域で資金を循環させることを目的とした金融形態の総称として、「コミュニティ金融」(「市民出資」・「市民金融」とも。)という語が用いられる。一般的な金融機関、特にメガバンクや郵便貯金であれば第1章第2節で指摘したように大都市圏への投資集中という問題が発生するが、それに対抗する金融の仕組みである。*


事例解説:おひさまエネルギーファンド株式会社による「おひさまファンド2009匿名組合」

 おひさまエネルギーファンド株式会社は、市民出資による地域ぐるみでの太陽光発電・バイオマス活用の普及などを目的とした民間企業(第二種金融商品取引業者として登録)である。全国の一般市民から募った出資金で家庭用太陽光発電設備などへの投資を行い、その運用で得られた収益を出資者に配当するという仕組みの事業を行う。
 2009年末までに長野県・岡山県・北海道の3拠点を事業対象とした3つのファンドを立ち上げ、2005年、2006年、2007年にそれぞれ募債を行った*。一口の出資金額はいずれも10万円または50万円であり、出資者は10年または15年にわたって元本+年率2-3%程度(目標値)の分配を得る。「出資」のため元本保証はないが、いずれのファンドも約2億円-4.5億円の出資金を集めている。
 同社は、この出資金を投じて事業対象地域の幼稚園・公民館に太陽光発電設備を設置したり、商店街を対象にしたESCO方式の省エネ機器導入サービスを行ったり(ファンドの一つ、「南信州おひさまファンド・プロジェクト」の場合*)して長期的な収益を得る。2007年7月に最初の配当が行われた際は、当初の計画利回り通りの配当が達成できたことが報じられた*。
 会社運営には自然エネルギー政策の専門家が関わり、環境・エネルギー分野の独立系研究機関や地域エネルギー事業の企画と開発支援を専門とする企業が事業パートナーとしてついている。これらにより事業の健全性・確実性が担保されている。

 これにより多額の元手を必要とする社会投資が可能になり、特定地域での自然エネルギー開発・機器更新のための投資が実現した。また、波及的な効果として地域の子どもたちへの環境教育や全国の出資者と地域住民との交流に役立ったことが同社ウェブサイトで報告されている。出資者として紹介されている方々の属性やコメントからは、環境に関心のある一般の社会人や家族、高齢者がこのような投資に踏み出していることが読み取れる。

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Posted by 山本泰弘 at 02:00│Comments(0)学士論文(2010年)
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