2017年05月03日

1881 【現代語訳】千葉卓三郎「五日市憲法(日本帝国憲法)」

五日市憲法草案(日本帝国憲法、1881年起草(伝)、1968年発見)
現代語訳:山本泰弘
底本:あきる野市デジタルアーカイブ所蔵 五日市憲法草案書き下し文
自由民権現代研究会 私擬憲法リマスター 掲載


日本帝国憲法
   第一篇 国帝
      第一章 帝位相続
      第二章 摂政官
      第三章 国帝権理
   第二篇 公法
      第一章 国民権理
   第三篇 立法権
      第一章 民撰議院
      第二章 元老議院
      第三章 国会権任
      第四章 国会開閉
      第五章 国憲改正
   第四篇 行政権
   第五篇 司法権


日本帝国憲法
陸陽仙台千葉卓三郎草

第一篇 国帝

第一章 帝位相続

1.1.日本国の帝位は、神武帝の正統な後継者である現在の帝から、その子孫へ代々受け継がれる。帝の後を継ぐ順序は、次の条文のとおりとする。
1.2.日本国の帝位は、帝の正妻との間の男子およびその男系の子孫に代々受け継がれる。帝と正妻との間に男子がいなければ、他の妻との間の男子およびその男系の子孫に代々受け継がれる。
1.2.日本国の帝位は、嫡皇子(皇后との間の男子)及びその男系に代々受け継がれる。その該当者がいないときは嫡衆子(皇后以外の正室との間の男子)及びその男系に代々受け継がれる。その該当者もいないときは庶皇子(側室との間の男子)及びその男系に代々受け継がれる。
1.3.帝に男子がいないときは、帝位は帝の兄弟及びその男系に代々受け継がれる。
1.4.帝に男子も兄弟もいないときは、帝位は帝の伯父・叔父(帝の父の兄弟)及びその男系に代々受け継がれる。
1.5.帝に男子も兄弟も伯父・叔父もいないときは、帝位は皇族の中で現在の帝に最も血縁が近い男性及びその男系に代々受け継がれる。
1.6.皇族に男性がいないときは、帝位は皇族の中で現在の帝に最も血縁が近い女性に受け継がれる。ただし、女帝の配偶者は帝の権限に関与することができない。
1.7.以上の帝位承継の順序は、総じて年長者は年少者に、嫡出子(正妻との間の子)は庶子(側室との間の子)に、子は親に優先する。
1.8.特殊な事情により、以上の帝位承継の順序を超えて帝位継承者を定める必要があるときは、帝はそのことについて国会に提案し、国会議員三分の二以上の賛成で可決されることが必要である。
1.9.帝室及び皇族の必要経費は、国が相応の額を提供することができる。
1.10.皇族の地位は、三代まで受け継がれる。四代目以下は姓を得て一般平民となる。


第二章 摂政官

2.1.帝は、満18歳で成人となる。
2.2.帝は、成人に達するまでの間は摂政官を置くことができる。
2.3.成人した帝であっても、自ら政務を行うことができない事情があり、国会がその事実を認めたときは、その事情が存在する間は摂政官を置くことができる。
2.4.摂政官は、帝もしくは太政大臣が皇族の近親者の内から指名し、国会で三分の二以上の賛成で可決されなければならない。
2.5.成人した帝が自ら政務を行うことができない場合で、次の帝位継承者が満15歳に達しているときは、その人物を摂政官に任じる。この場合は、帝もしくは太政大臣から国会に通知すればよく、議決は必要ない。
2.6.摂政官は、その地位にある間、名誉や爵位を授けることや軍の儀礼に関すること以外の帝の権限を代行する。
2.7.摂政官は、一般には満21才以上の成人でなくてはならない。


第三章 国帝の権利

3.1.帝の身体は神聖であり侵害することはできず、何らかの責任を負うことはない。もしも帝が国政に関し行ったことにつき国民に対して過失があった場合は、担当の国務大臣がその責任を追う。
3.2.帝は、立法・行政・司法の三部門を総じて取り締まる。
3.3.帝は、自らの意思で執政官を任用・免職する。また、元老議院の議員及び裁判官を任命する。ただし、終身官・終身議員は法律に定められた場合を除いて免職することができない。
3.4.帝は陸海軍を総じて監督し、武官を配置し軍隊を整備して必要に応じこれらを派遣することができる。ただし、それらの昇進・免職・退職については、法律により定められた規則に則って帝が決定する。
3.5.帝は、軍隊に対し憲法に違反する行為をさせることはできない。かつ、戦時下でないときは、元老議院・民撰議院の承諾がなければ国内に臨時に兵隊を配備することは決してできない。
3.6.帝は、貨幣を製造・改造する権限を持つ。貨幣については、法律で詳細を定める。また、帝自身の肖像を貨幣に入れることができる。
3.7.帝は、爵位や貴族の位を授けたり、法律に則って勲章や栄誉などを授けたり、法律で定められた範囲の恩賜金を授けたりすることができる。ただし、国の支出でこれらの費用を賄う場合は、国会の可決がなければならない。
3.8.帝は、何も義務の生じない外国の勲章などを受けることができる。また、帝の承諾があれば皇族もそれらを受けることができる。ただし、いかなる場合でも、帝に仕える者は帝の許しなくして外国の勲章や爵位、官職を受けることができない。
3.9.日本人は、外国の貴族の称号を受けることができない。
3.10.帝は、特命を発して、すでに決着した刑事裁判を白紙化し、いずれの裁判所にでも裁判をやり直させる権限を持つ。
3.11.帝は、裁判官の判決により処された犯罪者の刑罰を軽減したり免除したりする権限を持つ。
3.12.帝は、重罪の刑に処されて生涯にわたり公民権を剥奪された者に対し、法律の定めに則り国会に提案し可決を得て、罪を許し権利を復活させることができる。
3.13.帝は、全国の裁判を責任を持って監督し、それらが万全になされるよう見守る。また、法で定められた罪を犯す者があるときは、帝の名をもって追跡・逮捕・求刑し、断罪する。
3.14.司法関係者を告訴する者があるときは、帝はその訴えを聴き、参議院の意見を求めた後に、訴えられた者を停職にすることができる。
3.15.帝は、国会を開くよう求め、国会の開会・閉会、延期を行う。
3.16.帝は、国益のために必須と判断するときは、国会が開かれていないとき臨時に国会を開くことができる。
3.17.帝は、法律案をはじめ、自ら適切と思う議案を国会に出す。
3.18.帝は、国会の決議を得ることなく特権によって外国との各種の約束を結ぶことができる。ただし、その約束が国民に密接に関係し、または国の財産を費やし、もしくは国の領域を変化させる条約及びその修正である場合は、国会の承諾がなければ効力を持たない。
3.19.帝は、戦争の開始を宣言したり、戦争の講和を行ったり、その他国家間の友好・同盟などの条約を結んだりする。ただし、そのことを直ちに国会の両院に通知しなければならない。かつ、これらの他にも帝が国家の利益や安寧と密接に関わると考える行為については、行ったら直ちに国会の両院に通知する。
3.20.帝は、外交事務を総じて取り締まる。外国に派遣する使節、公使、領事を任命・免職する。
3.21.帝は、国会が決議して行った提案について、認めるか拒否するかの判断を下す。
3.22.帝は、国会の決議に印鑑を押して最終決定することをはじめ、立法権に属するあらゆる職務について最終判断し、それらを法として公布することができる。
3.23.帝は、日本国内に外国の兵隊が入ることを許可することと、後継者に帝の座を譲るために退位することの二つについては、特別の法律に従って国会の承諾を得なければ行うことができない。
3.24.帝は、国の安寧のために必要な場合には国会の各議院(民撰議院・元老議院)を停止し解散させる権限を持つ。ただし、議院を解散させるのと同時に、40日以内に新しい議員を選挙するとともに2か月以内に議院を新たに開始することを命じなければならない。


第二篇 公法

第一章 国民の権利

4.1.次に掲げる者を日本国民とする。
 ①日本国内で生まれた者
 ②日本国外の生まれでも、父母が日本国民である者
 ③日本国に帰化した外国人 ただし、帰化外国人が得る権利は別途法律で定める。
4.2.次に掲げる者は、政治参加の権利を停止する。
 ①心身に重大な障害がある者
 ②禁錮刑・流刑の判決を受けた者 ただし、刑期が終われば政治参加できる。
4.3.次に掲げる者は、日本国民の権利を失う。
 ①外国に帰化し、外国の国籍となった者
 ②日本国の帝の許しを得ずに、外国政府から官職・爵位・称号・恩賜金を受けた者
4.4.日本国民は、各自の権利と自由を享受できる。これは他から妨害することはできない。かつ、国の法はこれを保護しなければならない。
4.5.日本国民は、憲法が定める一定以上の財産や知識がある者は、国の政治に参画して賛否を発言したり議論したりする権利を持つ。
4.6.日本国民は全て、民族・戸籍・地位・階級の違いを問わず法律のもとに平等の権利を持つ。
4.7.日本国民は全て、日本全国において同一の法が適用され、同一の保護を受ける。特定の地方・家系・個人に特権が与えられることはない。
4.8.日本国に居住・滞在する人は、日本国民か外国人かを問わず全て、身体・生命・財産・名誉を保護される。
4.9.法律は、制定された時より過去に遡って適用されてはならない。
4.10.日本国民は全て、法律を守っていればいかなる内容でも、政府からの事前検査を受けずに自由に思想・意見・論説・図や絵を表現したり、出版・発行したり、世間の人々に講談・討論・演説したりして公に広めることができる。ただし、その弊害を防止するために必要な措置を定めた法律に違反した場合は、その刑罰を受けなければならない。
4.11.思想の自由の権利に関わる犯罪は、法律に定める機会と方式に従って裁かれなければならない。思想表現による犯罪については、法律に定める特例を除き陪審員がその重さを判断する。
4.12.日本国民は、法律に定められていること以外は何らかのことを強制的にさせられたり止められたりしない。
4.13.日本国民は、個人でも団体でも、法律に定められた方法に従って、帝、国会、その他政府の機関に対して請願や提案を行う権利を持つ。そのような請願や提案を行ったことを理由に罪に問われたり刑を受けたりすることはない。もし、政府の行いや国民同士の関係、その他どのようなことでも、国民自身が不条理と思うことがあれば、帝、国会、その他いずれの政府の機関にでも請願や提案をすることができる。
4.14.日本国民には、華族・士族・平民のいずれかであるかを問わず、その才能や人物に応じ国家の官僚や軍人として就職する機会が平等にある。
4.15.日本国民は、どんな宗教であっても自由に信仰してよい。ただし政府は、常に国の安寧と宗教・宗派間の平和を保つために適切な行動をとることができる。また、国家の法律が宗教的なものであってはならず、そのような法律は憲法違反で無効である。
4.16.いかなる労働・工業・農耕でも、公の秩序や風俗に反し国民の安寧や健康を損なうものでなければ、禁止されることはない。
4.17.日本国民は、国の安寧を揺るがす手段や意図によらず、または武器を持つことなく、平穏に団体を作ったり集会を開いたりする権利を持つ。ただし、それらの行為による弊害(デメリット)を防ぐために必要な規則を法律で定める。
4.18.日本国民は、信書の秘密を探られることはない。法律の定めに基づき法のもとに適切な捜査の場合や、戦時中の場合、または裁判所の判断に基づく場合を除き、日本国民の信書を没収することはできない。
4.19.日本国民は、法律に定められた機会と規則に基づいた場合でなければ、身柄を拘束されたり、呼出・連行・監禁されたり、強制的に住居に踏み込まれたりすることはない。
4.20.日本国民各自の住居は、国内どこであってもその人の自由である。住居を他の者が邪魔してはならない。もし、家の主の了解なく、または家の中から招いたわけでなく、災害や危険を防ぐためでもないのに夜間に他人の家に侵入することはできない。
4.21.日本国民は、財産を所有する権利を持つ。いかなる場合であっても、財産を没収されることはない。公の規則に基づき、公の利益のためであることを証明し、かつその時点で適切な額の代金を前払いするのでなければ、国の機関に財産を買い上げられることはない。
4.22.日本国民は、国会において決定し、かつ帝が許可した場合でなければ、税を課されることはない。
4.23.日本国民は、その者の事件を担当する裁判官あるいは裁判所にでなければ、法の裁きを受けることはない。たとえ刑法やその他の法令上の規則に基づいていても、他の機関に裁かれることはない。
4.24.法律の条文に明記されたことでなければ、身柄を拘束されたり逮捕されたり、罪に問われたり刑罰を与えられたりすることはない。かつ、一度罪や刑が確定した事件について再び罪を問われ刑を与えられてはならない。
4.25.日本国民は、法律で定める場合を除いて、逮捕されることはない。逮捕する場合は、裁判官が署名した文書によって逮捕の理由と罪を訴えた者の名と証人の名を容疑者に知らせなければならない。
4.26.逮捕された者は、二十四時間以内に裁判官の前に出さなければならない。逮捕した者をすぐには解放できない場合は、裁判官がその理由を明記した文書を出すことで、拘束し続けることができる。その手続きは可能な限り迅速に、法律で定める期限内に行われなければならない。
4.27.逮捕され拘束された者が求めるならば、裁判官が示した事件についてすぐに控訴・上告できる。
4.28.一般の犯罪で逮捕された者は、法律の定めによって保釈される権利を持つ。
4.29.誰しも、正当な裁判官以外に罪を裁かれることはない。このため、臨時裁判所を作ることはできない。
4.30.政府に逆らった罪を理由に死刑とされてはならない。
4.31.法に基づかないで逮捕が行われた場合は、政府は逮捕された者に対して損害賠償金を払わなければならない。
4.32.日本国民は属性を問わず、法に基づいた徴集や募集に応じて海軍・陸軍の一員となり、日本国の防衛に当たることができる。
4.33.日本国民は誰しも、所有する財産の大きさに応じて国家財政を支える税金を負担しなければならない。皇族といえども、税負担を免除されてはならない。
4.34.日本国民は、国や公の機関の債務を負担しなければならない。
4.35.子の教育において、何をどのように教えるかは自由とする。しかし、子に初等教育を行うことは保護者の逃れられない責任である。
4.36.府県の首長は、国の法律によってその地位や権限が定められなければならない。府県の自治は各地の風習や慣例に基づくものであるため、それに対し干渉や妨害をすることはできない。府県の自治の領域は、国会といえども侵害することはできない。


第三篇 立法権

第一章 民選議院

5.1.民選議院は、選挙法によって定めた規定に従い、直接選挙によって選ばれた代議士によって構成される。人口二十万人に一人の割合で議員を選出する。
5.2.代議士の任期は三年とし、二年ごとに半数ずつを改選する。当選回数に制限はない。
5.3.次の全てに当てはまる者が、代議士として選ばれる資格を持つ。
 ①日本国民
 ②聖職者(神官・僧侶・宣教師・教員など)以外の者
 ③政治参加の権利を持つ者
 ④満三十歳以上の男性
 ⑤法律で定める額の財産を持つ者
 ⑥所有する土地から収入を得ている者
 ⑦法律で定める額の税金を納めている者
 ⑧文武の常識をわきまえた者
5.4.前条に示した条件を満たす日本国民のうち、半数は自らの居住する選挙区からのみ、もう半数は全国どこの選挙区からでも、代議士に選出されることができる。ただし、民選議員の代議士と元老議員の議官を兼ねることはできない。
5.5.代議士は日本国民全体の代表者であり、選出された選挙区の代表ではない。よって、選挙区民の指示に従う必要はない。
5.6.次のいずれかに当てはまるものは、民選議院の選挙で投票する資格を持たない。
 ①女性
 ②未成年者
 ③財産権が制限されている者
 ④知的障害がある者
 ⑤住居が無く、他人の使用人となっている者
 ⑥政府の助成金を受けた者
 ⑦犯罪により懲役一年以上の刑を受けている者
 ⑧失踪の宣告がされた者
5.7.民選議院は、日本帝国の財政に関する法政策案を作る特権を持つ。
5.8.民選議院は、過去の政策について検査しその悪影響を修正する権限を持つ。
5.9.民選議院は、行政官が出した法政策案を討論する権限を持つ。帝の提案を修正する権限を持つ。
5.10.民選議院は、必要な調査のために行政官や人民を呼び出す権限を持つ。
5.11.民選議院は、政策上の違反があると認めた行政官について、元老議院に訴えて処分させる特権を持つ。
5.12.民選議院は、代議士の身分について、次のことを判定する権限を持つ。
 ①代議士が民選議院の命令・規則・特権に違反するか
 ②代議士の選挙に関する訴え
5.13.民選議院の議長・副議長は、代議士の中から選出し帝の承認を得て決定する。
5.14.代議士は、議会で行った討論・演説について裁判に訴えられることはない。
5.15.代議士は、議会の会期中とその前後二十日間は、民事訴訟を受けてもそれに答弁しなくてよい。ただし、民選議院が承認する場合は、答弁しなければならない。
5.16.代議士は、議会の会期中とその前後二十日間は、現行犯の場合を除き、民選議院の承認がなければ逮捕・拘束されることはない。現行犯の場合も、裁判所は代議士を逮捕・拘束したら直ちに民選議院に通知し、民選議院にその事件についての真相究明と処分をさせなければならない。
5.17.民選議院は、議会の会期中とその前後二十日間は代議士の犯罪による身柄の拘束を停止させる権限を持つ。
5.18.民選議院の議長は、議院の事務官を任命・免職する権限を持つ。
5.19.代議士は、改選前の最後の議会で決定された額の給与を得る。また、特別の議決によって議会出席にかかった旅費を得ることができる。


第三篇 立法権

第二章 元老議院

6.1.元老議院は、帝の特権によって任命された議官四十名で構成される。ただし、元老議官は民選議院の代議士を兼ねることはできない。
6.2.満三十五歳以上で、次のいずれかの条件を満たす者のみが、元老議官になる資格を持つ。
 ①民選議院の議長
 ②代議士に三回選ばれたことがある者
 ③執政官または大臣
 ④参議官
 ⑤三等官以上に任命された者
 ⑥日本国の皇族または華族
 ⑦軍の大将・中将・少将
 ⑧特命全権大使または公使
 ⑨大審院・上等裁判所の議長、裁判官、または大検事
 ⑩地方長官
 ⑪国のために功績を挙げた者または能力と道徳において公に信認を得た者
6.3.元老議官は、議員の中から帝の特命によって任命する。
6.4.元老議官は、本人が生きている限りその地位を持つ。
6.5.元老議官は、一年に三万円以内の給与を得る。
6.6.帝の男子または皇太子の男子で、満二十五歳となって文武の常識を備えた者は、元老議官を務めることができる。
6.7.税金をかけるための議案は、まず民選議院において審議し、民選議院が決議したら元老議院がそれを再度審議する。このとき元老議院は、民選議院で決議された議案を可決するか否決するしかなく、議案を修正することはできない。
6.8.元老議院の制度や権限に関する法律案は、まず元老議院で審議しなければならない。このとき民選議院は、民選議院で決議された議案を可決するか否決するしかなく、議案を修正することはできない。
6.9.元老議院は、立法権を司るほか、次の三つの権限を持つ。それぞれの規則や手続きについては、法律で別途定める。
 ①民選議院からの訴えに基づき、大臣や行政官による行政上の不正を審判する。
 ②帝の身体または権威に対する重犯罪や、国家の安寧に対する重犯罪を裁判する。
 ③元老議官について裁判する。
6.10.元老議官は、議会の会期中、現行犯の場合を除いては元老議院の承認なく逮捕・拘束・裁判されることはない。
6.11.いかなる場合であっても、元老議官を逮捕・裁判するときは、直ちにそのことを元老議院に通知し、元老議院は議院の権限による処分を行う。


第三章 国会の職権

7.1.国家永続のための秩序を定める憲法を決定・修正し、最重要な三大制度の存続の判断を司る。
7.2.国会は、帝と、立法権を持つ元老議院・民選議院によって成り立つ。
7.3.国会は全て公開で行い、市民の傍聴を許可する。ただし、国益のためまたは緊急事態のため秘密会議を行う必要があるときは、議員十人以上が求めることでそれぞれの議院の議長が傍聴を禁止することができる。
7.4.国会は日本国民全てを代理する者として、法律を制定する立法権を持つ。ただし法律には帝の認可が必要である。
7.5.国会は、政府がもし憲法、宗教、道徳、信教の自由、個人の自由、法の下の平等、財産の所有権、もしくは法の原則に違反し、または国の防衛を損なうようなことがあれば、それを見逃さず反論し、事態発生時にさかのぼってその政策を拒絶する権限を持つ。
7.6.民選議院または元老議院が却下した法律案は、同じ会期中に再度提出することはできない。
7.7.国会は、政府の権限を定める公法と、国民同士の関係について定める私法を整備しなければならない。すなわち、国家に不可欠な建国制度、一般の私法、民事訴訟法、海上法、鉱山法、山林法、刑法、税の徴収と国家財政の原則、兵役の義務に関する原則などについて定めるとともに、国家財政の予算表を決定する。
7.8.国会は、政府が税をかけること、国営インフラの利用料金とその用途を決めること、国家の信用力によって国債を発行することについて認める権限を持つ。
7.9.国会は、行政機関の全てについて、法律や規則に違反していないか、実行した措置が適切であるか監督する権限を持つ。
7.10.国会が法案を議論する際は、帝がそれを中止させたり禁じたりすることはできない。
7.11.国会は、民選議院・元老議院ともに規則を設けて各院を取り仕切る権限を持つ。
7.12.国会は、議決によって①憲法に不足する条文を補う権限、②憲法に違反する政府の行動を矯正する権限、③新たな法律の制定や憲法の変更について発議する権限 を持つ。
7.13.国会は、全国民のために法律の内容を説明しなければならない。
7.14.国会は、帝、皇太子、または摂政官に、憲法と法律を守ることを宣言させる。
7.15.国会は、憲法に定める場合には、摂政を選出し、その権限を指定し、未成年である帝の後見人を任命する。
7.16.国会は、民選議院により訴えを起こされて元老議院の裁判で有罪となった閣僚を罰する。
7.17.①国会は、②国債を発行して資金を集める権限、③国の領地を売却したり領域を変更したりする権限、④府県を新設したり分割・合併したりする権限、⑤その他の行政区画を決定する権限 を持つ。
7.18.国会は、国家財政の歳入・歳出を計算した予算表を検討し、同意すればその予算は実行が認められる。
7.19.国会は、国の緊急事態において、政府の求めに応じ議員にその事態に関する特別な権限を指定し与える。
7.20.国会は、帝が亡くなったときまたは帝の座が空位となったときは、これまでの政策を検査し政策上の欠点を改正する。
7.21.国会は、帝国の領土または港に外国の軍隊が進入することの可否を判断する。
7.22.国会は、毎年政府の提案により、平時と緊急時の軍隊の最大規模を定める。
7.23.国会は、発行した国債を償還するために適切な方法を議論し決定する。
7.24.国会は、帝国に法律を施行するために必要な行政規則を決定する。
7.25.国会は、政府の官職とその給与を設定・改定・廃止する。
7.26.国会は、①貨幣についての規則 および ②長さ・容積・重さなどの単位 を設定する。
7.27.国会は、外国との条約について議決する。
7.28.国会は、兵役の義務を実行させる方法・規則・期限に関すること(特に、毎年集める兵士の人数、軍馬の調達、兵士の食料、陣地の規則)を議決する。
7.29.国会は、①政府の年間収支、②予算表の規則、③毎年各種の税をかけること、④政府の決算表と会計管理手続きの検査、⑤新たに国債を発行すること、⑥すでに発行した政府公債の変更、⑦国有地の売却・貸与、⑧独占販売その他特権についての法律 といった全国共通の会計関係の事務を定める。
7.30.国会は、貨幣(硬貨・紙幣)の発行に関する事務の規則、税関・貿易・電線・駅・鉄道その他国内外を連結する方法を議決する。
7.31.国会は、①証券取引、②産業規格、③長さ・容積・重さの基準となる定規・枡・重りの製造、④署名と印章の保護 についての法律を定める。
7.32.国会は、①医薬の法律、②伝染病防護の法律 を定める。


第四章 国会の開閉

8.1.国会は、両議院ともに必ず帝の命令によって毎年同時に開会しなければならない。
8.2.帝は、国の安寧のために必要と判断する場合には、両議院の①議決を認めない、②議会を中止する、③議会が混乱する場合は解散を命じる 権限を持つ。
 ただし、解散を命じた場合は必ず四十日以内に新たな議員を選出し二か月以内に議会を再開しなければならない。
8.3.帝が亡くなって、国会を開会する時期になっても命令を出す者がいない場合は、命令がなくても議員が集合して国会を開くことができる。
8.4.国会の会期中に帝が亡くなった場合は、後を継いだ新たな帝が解散を命じるまでは解散せず通常の会議を続けることができる。
8.5.国会の会期が終わり、次の国会が開かれるまでの間に帝が亡くなった場合は、議員が集合して国会を開くことができる。もし後を継いだ新たな帝により解散を命じられなければ、通常の会議を続けることができる。
8.6.議員の選挙が終わった後、まだ国会が開かれない間に帝が亡くなり、国会の開会を命じる者がいない場合は、議員が集合して国会を開くことができる。もし後を継いだ新たな帝により解散を命じられなければ、通常の会議を続けることができる。
8.7.国会議員の任期が切れ、次の議員がまだ選挙されていないときに帝が亡くなった場合は、任期が切れた前の議員が集合して一期のみ国会を開くことができる。
8.8.各議院の会議は同時に行わなければならない。もしいずれか一方のみが会議を行った場合は、国会の権限を持たない。ただし、議員の裁判のために元老議院を開く場合は、法廷としての権限を持つので有効である。
8.9.各議院は、議員の出席が過半数とならなければ会議を開くことができない。


第五章 憲法の改正

9.1.国の憲法の改正は、特別会議において行わなければならない。
9.2.特別会議は、両議院の三分の二以上の議員の賛成で議決し、かつ帝の許可がなければ開くことができない。
9.3.特別会議を開くときは、民選議院は休会する。
9.4.特別会議は、元老議員と、憲法改正のために選挙された人民の代表の議員によって成り立つ。
9.5.憲法は、人民代表議員の三分の二以上、元老議員の三分の二以上の賛成で議決した上で、帝の許可がなければ改正することができない。
9.6.特別会議は、その回の議事が終われば解散する。
9.7.特別会議が解散するときは、その前に開かれた国会は通常の進行に戻る。
9.8.憲法を除く全ての法律は、両議院において出席議員の過半数の同意により議決する。


第四篇

第一章 行政権

10.1.帝は行政官を監督する。
10.2.太政大臣と各省の長官を、行政官とする。
10.3.行政官は内閣を結成し、政策を討議し、各人が省の長官(卿)となってその省の事務を司る。
10.4.政府が出す政令や規則には、太政大臣と、該当分野の省の長官が署名する。
10.5.太政大臣は、大蔵卿を兼任しなければならない。
10.6.太政大臣は、帝に伝達した上で大蔵卿以外の省の長官を任命・免職する権限を持つ。
10.7.各省の長官の序列は次のとおり。
 ①大蔵卿、②内務卿、③外務卿、④司法卿、⑤陸軍卿、⑥海軍卿、
 ⑦工部卿、⑧宮内卿、⑨開拓卿、⑩教部卿、⑪文部卿、⑫農商務卿
10.8.行政官は、帝の命令に忠実に政務を実行する。
10.9.行政官は、担当する政務について議院に対し責任を負う。もしその政務について議院の信頼を失ったときは、行政官を辞職しなければならない。
10.10.行政官は、法案を作成し議院に提出することができる。
10.11.行政官は、国会議員を兼任することができる。
10.12.行政官は、毎年国家予算に関する議案を作成し議院に提案しなければならない。
10.13.行政官は、毎年国家の決算書を作成し議院に報告しなければならない。


第五篇

第一章 司法権

11.1.帝は司法権を総括する。
11.2.司法権は独立して偏らず、法典に定める機会に、司法の規定に従って、民事・刑事事件を審理する裁判官・判事・陪審員が実行する。
11.3.①大審院(最高裁判所)、②上等裁判所、③下等裁判所 を設ける。
11.4.①民法、②商法、③刑法、④訴訟法、⑤治罪法、⑥山林法、⑦司法官(裁判官)の構成 は、全国同等とする。
11.5.上等裁判所・下等裁判所の①数、②種類、③各裁判所の構成と権限・任務、④その権限・任務を実行する方法、⑤裁判官に付与される権限 などは、法律で定める。
11.6.裁判所は、上等・下等いずれでも廃止・改組することはできない。その体系は、法律によらなければ変更してはならない。
11.7.裁判官は全て帝が任命する。判事は終身職として任命される。陪審官は訴訟事件の判決を下す。裁判官は法律を解釈・適用する。諸々の裁判は、裁判所長の名で実行・判決する。
11.8.郡裁判所以外は、帝の任命した裁判官で三年間在職した者は、法律に定める場合を除いて転任・降任させることができない。
11.9.裁判官は全て、法律に違反することがあれば各自の責任となる。
11.10.裁判官は全て、自らが犯罪の裁判を受ける場合を除いて、有期・無期を問わずその職を奪われることはない。また、①司法官(裁判所議長または上等裁判所)の決定によりまたは②十分な理由に基づく帝の命令で、罪状ある裁判官をその所属する裁判所に訴える場合を除いて、裁判官の職を停止することはできない。
11.11.軍事裁判・護衛兵の裁判は、法律で定める。
11.12.税に関する訴訟と法令違反の裁判も、同様に法律で定める。
11.13.法律に定める場合を除いて、審理・裁判を行うために例外的・臨時的な司法機関を設けることはできない。いかなる場合であっても臨時・特別の裁判所を開き、臨時・特別の検察役を仕立て、裁判官を任命して罪を裁くことをさせてはならない。
11.14.現行犯を除き、該当する事件を取り扱う司法機関が発行した命令書によらなければ、人を逮捕することはできない。もし職権乱用で逮捕することがあれば、逮捕を命じた裁判官とそれを請求した者を法律に定める刑に処さなければならない。
11.15.罰金または禁固の刑に問われる犯罪者は、判決までの間その身柄を拘束できない。
11.16.裁判官は、管轄内の訴訟を把握・判断しないままに他の裁判所に移すことはできない。このため、管轄を超える特別の裁判所やそのための専任職員を設けることはできない。
11.17.何人も、自らの意思に反して、法律で定める正当な裁判官・判事から隔てられることはない。このため、正当な裁判所のほかに臨時裁判所を設けることはできない。
11.18.民事裁判・刑事裁判において、法律を適用する権限は上等・下等裁判所に属する。ただし、上等・下等裁判所は①判決を下すことと②その判決が実行されるのを監視すること 以外の業務を行うことはできない。
11.19.刑事裁判においては、証人を呼んで質疑し、その他全て罪となる点が明らかにされた後に、訴訟手続きが進行する。
11.20.行政権と司法権との間に生じうる権限争いの裁判については、法律で規定する。
11.21.司法権は、法律に定める特例を除き、参政権に関する訴訟を審理する。
11.22.民事・刑事いずれでも、裁判所の法廷は法律に定める規定に従い、必ず公開しなければならない。ただし、国家の安寧や風紀に影響する場合は法律の定めにより例外とする。
11.23.裁判は全て、法廷を開いて理由の説明とともに判決を言い渡さなければならない。刑事裁判は、判決の根拠とする法律の条項を明示しなければならない。
11.24.政治犯に対し死刑を宣告してはならない。政治犯の罪の事実は、陪審官が判定しなければならない。
11.25.著述・出版の犯罪の重さは、法律に定める特例を除き陪審官が判定する。
11.26.法律で定める重罪については、陪審官が罪の事実と重さを判定する。
11.27.法律に定める場合を除き、何人も逮捕の理由を明示した判事の命令によらなければ逮捕してはならない。
11.28.判事の命令の規則と、犯罪者の訴追に従事する期限は、法律で定める。
11.29.何人も、法律で職務に付与された権限によって、かつ法律で指定された規定に従って行う場合でなければ、家主の意思に反して家屋に侵入することはできない。
11.30.いかなる罪があっても、犯罪者の財産を没収してはならない。
11.31.信書便を取り扱う機関に託された信書の秘密は、法律で定める場合に判事から特殊な許可があるときを除き、絶対に侵害してはならない。
11.32.公益のために財産の没収を要する場合は、事前に法律で公布しなければならない。
11.33.①要塞の建設、②堤防の構築・補修、③伝染病 その他緊急事態において前条の公布が無くても没収できる場合は、法律で指定する。
11.34.戦時・火災・水害に際し、即時に財産没収が必要な場合は、その持ち主は法律による公布と没収の事前補償金を要求することができない。ただし、没収の補償を請求する権利は損なわれない。


1881 【現代語訳】千葉卓三郎「五日市憲法(日本帝国憲法)」



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Posted by 山本泰弘 at 00:00│Comments(0)【現代語訳】
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