2010年04月30日

地球温暖化対策の中期目標に対するコメント(麻生政権時)

2009/05/16
筑波大学 3Ecafeプロジェクトチーム
地球温暖化対策の中期目標に対するコメント

 「3Ecafeプロジェクトチーム」は、筑波大学の学生有志による組織で、筑波大学が主唱する「つくば3E(環境Environment、エネルギー Energy、経済Economy)フォーラム宣言」の趣旨に同調し低炭素社会・環境都市の実現に向けた提言活動を行っています。

筑波大学 つくば3Eフォーラム http://www.sakura.cc.tsukuba.ac.jp/~eeeforum/
3Ecafe HP http://t3ecafe.me.land.to/
3Ecafe ブログ http://t3ecafe.tsukuba.ch/


≪3Ecafeプロジェクトチームによる意見≫

(1)我が国の温室効果ガスの中期目標(2020年)は、どの程度の排出量とすべきか

 私たちは、「1990年比-15%」(シナリオ⑤)を支持する。その理由は以下のとおりである。

①国立環境研究所の研究結果として発表されている以下の点を、特に重視すべきであること。
 ・「1990年比-15%」の場合でも持続的な経済成長は確保され、シナリオ①「長期需給見通し努力継続」の場合の実質GDP成長がわずか7か月遅れで達成される。
 ・低炭素社会は科学的に必至であり、特に社会・産業界へその方針を明確に示すシグナルを与える目標設定が必要である。

②国際交渉上での以下の要求を満たす必要があること。
 温室効果ガス削減の国際的枠組みに対する現在の日本の根本的主張に、「主要な温室効果ガス排出国のすべてが参加する枠組みを作る」というものがある。同時にアメリカは、中国・インドを含めることを枠組みへの参加条件としており、他方中国をはじめとする新興国・発展途上国の多くは先進国の大幅排出削減(-25~-40%)を枠組みへの参加条件としている。よって「先進国全体で1990年比-25%」の要求が課せられる可能性が高い。(そしてその場合、一律の数値目標を要求するEUとの妥協が必要となる。シナリオ②・④での妥協は非常に困難と考えられる。)

③それぞれのシナリオによる経済への影響が、GDPに大きく依存して算出されていること。
 「1990年比-15%」のような積極的な削減目標を設定することによるGDPの押し下げ効果を問題視する意見が多いが、経済発展をGDPのみに依存して測り続けることは危険である。GDPは、非効率な活動もプラスとみなされる 経済の「規模」を表す指標だからである。GDP上ではマイナスともなりえる経済の「質・効率」が重視される21世紀において、「GDPに縛られない経済成長」を目指すべきである。
(※詳細な主張・提案→(3)その他、2020 年頃に向けた我が国の地球温暖化対策に関する意見Ⅰ)

④国際金融市場における「社会的責任投資」概念の世界的拡大が予測されること。
  2006年、国際連合は「国際連合責任投資原則」を提唱し、環境・社会・コーポレートガヴァナンスへの配慮・貢献を評価した資金運用を行うことを世界の機関投資家に呼びかけた。この原則に各国の政府基金・公的年金の運用責任者などが署名しており、今後この観点に基づく資産運用は世界的潮流になると予測される。国内投資ポテンシャルが逓減する日本が海外からの投資をより受け入れるためには、国として低炭素社会への転換を指揮する目標設定が必要と考えられる。

⑤以下の観点による「世代間の公正」を確保すること。
 ・中期目標検討委員会の報告によると、どのシナリオを採った場合でも2050年-60%~-80%の目標は達成できるとされているが、2050年までの期間で削減のための負担を平準化すべきである。
 ・あくまで現状の構造に基づいた保守的な目標設定を行うことで、将来の日本が得られる環境関連分野での優位とそれに基づいた国民生活の豊かさ・日本経済の安定性・国際的地位などを失うことは、著しく不公正である。
 日本が今 社会・産業の低炭素社会対応を開始せず、環境関連産業の育成支援・雇用創出と環境分野の人材育成などに着手しなければ、国際競争力を著しく損なうばかりか有能な人材・企業の国外流出を招く結果となることが十分考えられる。

⑥現在限定的に認定されているCDM:クリーン開発メカニズム・JI:共同実施 の拡大を伴うことで、排出権の上乗せが可能であること。
 日本にとって有利と思われるCDM・JIは、現在国の削減量に算入される上限が厳しく設定され、その認定のプロセスも煩雑である。日本は「1990年比 -15%」の目標を設定すると同時に、「ポスト京都」の枠組みにおいてCDM・JIの拡大を主張すべきであり、その目標設定によって主張に説得力が生まれると考えられる。
(※詳細な主張・提案→(3)その他、2020 年頃に向けた我が国の地球温暖化対策に関する意見Ⅱ)


(2)その中期目標の実現に向けて、どのような政策を実施すべきか

 具体的な政策については、基本的に中期目標検討委員会・国立環境研究所の提示する「1990年比-15%」シナリオ(シナリオ⑤)にて提案されているものを支持する。
 ただし、「1990年比-25%」シナリオ(シナリオ⑥)にのみ示されている「炭素への価格付け政策」、特に炭素税は目標値に関わらず実施すべきである。その場合、消費税のように流通部門より最終消費者により割高な負担を求めるべきである。


(3)その他、2020年頃に向けた我が国の地球温暖化対策に関する意見

Ⅰ・経済指標の「GDP」一極集中からの脱却――「効率性」を重視した代替経済指標の導入
― 日本の目指す「低炭素社会」の経済で重要視すべきなのは、その「規模」ではなく「質」である。あらゆる資源・生産物をいかに効率的に利用して生産性を向上させるかが問われる21世紀において、不必要な資源投入・生産物消費の規模をも反映して算出するGDPは、経済指標としての意味をなしえない。投入された資源・生産物が非効率に利用されてもGDPの増加として表されるからである。逆に効率化により資源投入量・生産物消費量を削減すれば、それはGDP減少と見なされる。

 未来志向の政策目標に用いられる経済指標が20世紀的なもののみであることは許されない。これまで経済成長の指標をGDPのみに依存してきたことを見直し、「GDPに縛られない経済成長」を提唱すべきである。

 GDPに代わる指標としては、「グリーンGDP」が一部で取りざたされているが、数値化の対象を「自然資源の減耗」・「環境に関する外部不経済」に限定している点で不十分である。自然環境に直接正負の影響を与えない経済の効率化が反映されていない。
 
 資源投入量・生産物消費量を圧縮しつつ生産性を向上させる――これは、市中の民間企業、政府機関、もしくは家計などの単位で個別的に実施されていることであるが、その効果を統合した指標が不在である。そこで、新たな指標を確立・採用し、日本として主張することを求めたい。


Ⅱ・国際交渉における日本の戦略
―(1)⑥で述べたように、日本はCDM・JIを可能な限り有効活用できる仕組みの設定を主張すべきであると考える。ポスト京都の国際交渉では、認定上限の拡大・認定プロセスの円滑化を求めるとともに、京都メカニズムによって生まれる利益から気候変動適応基金に拠出される資金の割合を上げることを提案することで、発展途上国の賛同を得られるのではないか。 


3Ecafeプロジェクトチーム(学生有志団体)
担当者:筑波大学国際総合学類4年 山本泰弘

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