2010年04月30日

学士論文 報告資料

卒業論文「社会的責任投資の世界的潮流と日本の政策」
国際総合学類4年 山本泰弘

報告資料

≪目次≫
  序章 問題設定
  第1章 社会的責任投資の基本概念
    第1節 重要語句の整理・解説
         「社会的責任投資」「従来型の投資」「株主利益パラダイム」「『事業者』と『企業』」
    第2節 株主利益至上の投資から発生する問題
    第3節 社会的責任投資の歴史的経緯
  第2章 社会的責任投資をめぐる近年の動向
    第1節 国際的枠組み
    第2節 各国政府・公的年金基金
    第3節 民間金融機関
      第1項 NGOによる問題の指摘と働きかけ
      第2項 社会的責任投資商品の販売
      第3項 金融機関自体の社会的事業
    第4節 「コミュニティ金融」・「NPOバンク」の出現
  第3章 社会的責任投資に関する日本の政策
    第1節 政策の概況
    第2節 環境省
  終章 結論

  参考文献一覧
  英文サマリー
  あとがき


≪各章概要≫
 序章 問題設定

  ・投資家の短期的利益を唯一の基準とした投資の仕方が、環境や社会への悪影響を生んできた。(eg.世界金融経済危機)
  ・しかし近年、経済的利益だけでなく環境・社会への影響をも考慮した投資の仕方「社会的責任投資」が隆盛している。
  ・社会的責任投資は、従来型の価値観に代わり、市場の標準になるのか。

第1章 社会的責任投資の基本概念
  【社会的責任投資=Socially Responsible Investment: SRI とは】 
  ・投資評価基準: 1.経済...運用利益
             2.環境...排出物管理、温室効果ガス測定      =トリプルボトムライン
             3.社会...労働環境の充実、法令遵守・不祥事対応  
  ・手法: 1.投資先の選択...環境・社会によい影響を与える事業者を選ぶ/悪い影響を与える事業者を避ける
       2.株主行動...株主としての地位を利用して、経営者と対話・株主総会で提案
       3.コミュニティ投資...地域開発に特化した金融機関などへ投資
  ↑↓
  ・それに対する従来型の投資は... (eg.早大投資サークルのようなマネーゲーマー)
   1.投資評価基準が「経済」のみ
   2.投資家のみの利益が追求される
   3.短期的な観点である

  【株主利益至上の投資から発生する問題】
  1.外部不経済  2.社会的不公正  3.企業統治(の悪化)  4.大都市圏への投資集中

  【社会的責任投資の歴史的経緯】
  (キリスト教・イスラーム教・仏教などにおける"不当利得"を戒める教義)
  (日本の伝統的商人倫理"売り善し 買い善し 世間善し"など)
  1920年代~ アメリカ・英国 キリスト教会の資産運用方針に武器・タバコ・アルコール関連企業を避ける方針
  1960年代~ アメリカ ベトナム反戦・南アアパルトヘイト反対・公民権運動(→社会運動)の手段として関連企業への投資排除
  1980年代~ 欧州 社会的責任投資商品が発売される。環境分野の影響を重視した投資信託など。
     環境対応は企業業績に大きな影響を与えるため、一般の投資家の観点からも重視されるようになる
  1990年代~ 国際的枠組みが成立。国連環境計画金融イニシアティブ、国連グローバル・コンパクト。
  2000年代~ 国際的枠組みが進展、事業者により具体的な対応を促す。


第2章 社会的責任投資をめぐる近年の動向
  【国際的枠組み】
  1992年 国連環境計画金融イニシアティブ&環境と持続可能な発展に関する金融機関声明
    ・・・国連機関と世界の大規模金融機関との合意による枠組み・声明の基礎
  1997年 グローバル・レポーティング・イニシアティブ(社会的責任投資家と国連環境計画との合同事業→国際機関へ)
    ・・・事業者のCSR/サステイナビリティ報告書発行の国際的なガイドラインを制定
   2000年 カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(世界規模の投資家連合による活動)
    ・・・有力事業者の環境対応を調査し情報開示する
  2003年 赤道原則
    ・・・大規模金融機関が、途上国への開発投資について、環境・社会影響を調査し改善することを公約する宣言
  2006年 責任投資原則(国連アナン事務総長、国連環境計画、国連グローバルコンパクト)
    ・・・大規模金融機関が、

  【各国政府・公的基金】
  2000年~ EU 欧州(成長)戦略に「企業の社会的責任」が盛り込まれる
   2000年~ 英国、ドイツ、オーストラリアが年金運用機関に運用における環境・社会配慮を開示するよう法改正
    ・・・投資市場における環境・社会配慮の相互競争を引き起こす。社会的責任投資規模急拡大。
  2001年 英国政府が事業者に環境報告書作成の指針を示す
   2001年 スウェーデンが年金基金の投資判断に環境社会評価を取り入れることを規定
  2004年 ノルウェーが政府年金基金の運用に関する倫理ガイドラインを策定

  欧米の多くの公的基金は「責任投資原則」に署名して社会的責任投資の姿勢を明示している
  eg.アメリカカリフォルニア州公務員年金基金、フランスの国民年金、ノルウェーの政府年金基金や石油収入基金、ニュージーランドの年金基金など

  【民間金融機関(日本)】
  ・メガバンク(三井住友・東京三菱UFJ・みずほ)
  2004年から2009年にかけて、赤道原則や責任投資原則への署名や環境報告書の発行、投資事業での温室効果ガス測定などの面で明らかな進展があった。いまだに特定領域の企業を投資対象から排除するという方法はとっていないが、2009年のクラスター爆弾への関心の高まり(日本のメガバンクからクラスター爆弾製造関連企業に融資がされていた)を受け、一部メガバンクがその方法を検討する姿勢を明らかに。

  ・信用金庫・労働金庫・地方銀行
  もともと非営利と定められた業態であったり、地域経済を支える役割を(メガバンクに比べ比較的)担う金融機関としてこういったところへの投資・預金を社会的責任投資と捉える向きもある。実際近年これらの地域金融機関がNPOを対象にした融資を行うなどしているが、社会的責任投資の文脈からは注目されていない。

  ・コミュニティファンド・NPO金融
  一般市民から出資を募って特定の事業を興すという金融の仕組み。
  eg.出資を募って集まった資金で太陽光発電設備を導入し、その運用で得られた収益を長期にわたって出資者に分配する


第3章 社会的責任投資に関する日本の政策
  最も実績を挙げているのは・・・環境省。
  2003年~ 社会的責任投資に関する調査報告
   2007-2008年度 コミュニティ・ファンド等を活用した環境保全活動促進事業
  2009年~ 日本版環境金融の原則策定   (・・・今さら?)


終章 結論
  投資家一般の間で環境・社会影響の政府の価値が認められていることは、疑う余地がない。

  国際的な枠組みでの合意形成から公認され始めた「社会的責任投資」は、経済的利益を求める上でも環境・社会への影響を判断に含めるべきだとの機関投資家の認識により、もはや投資判断の主流になりつつある。投資家以外の主体の利益も織り込まれた、新たな合理性が経済活動によって追求されている。

  日本の金融機関も、これに追随する形で社会的責任投資の姿勢を示し出している。ただし欧米の機関投資家が主導権を握っていることに注意。

  日本では、これまで積極的な資産運用をしてこなかった一般市民がコミュニティファンドに出資して事業を成功させる例が目立っている。いまだ環境省の補助政策に依存しているが、この分野は拡大する可能性がある。公共事業以外の新たな「公」の事業の形と言える。

  環境・社会貢献は一見理想主義的な課題だが、それが利益追求という現実主義的行動により実現している。

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