2010年05月01日

学士論文 第2章 第3節 第3項 NGOによる問題の指摘と働きかけ

第2章 社会的責任投資の動向
第3節 民間金融機関
第3項 NGOによる問題の指摘と働きかけ



 日本の「国際青年環境NGO A SEED JAPAN(以降A SEED JAPAN)」は、2004年より継続して社会的責任投資に焦点を当てた「エコ貯金プロジェクト」を実施している。これは、序章で指摘した"無配慮な投資(預貯金)が、その個人の意図に関わらず社会に好ましくない影響を与える使途に使われてしまう"という問題を提起し、一般市民に対しみずからの預貯金の行方について意識を向けることを呼びかけるとともに、社会的責任投資についての情報提供や調査活動を行うものである。
 そのプロジェクトの一環としてA SEED JAPANは、2004年より国内の大手金融機関*に対し、資金の投資先に関する配慮の状況について問う公開質問状を送付しその回答を公表するという活動を行っている。またメガバンクと地域金融機関を対象として、環境・社会配慮に関する提言を過去4度にわたり発表している。いずれも、金融機関の投資の仕方という点に的を絞り、社会的責任投資への関与の必要性を指摘し可視的な行動を求めるものである。


 この一連の動きにおいて、A SEED JAPAN側の質問状や提言の内容は段階的に詳細化・細分化しており、メガバンク側の回答・対応はそれに応じる形で発展を見せている。
 2004 年の質問項目は国際的な投資原則や環境・社会配慮における融資基準、環境報告書等の発行の有無を主に問うものだったが、2008年の質問状では ・環境・社会配慮型融資制度、環境事業への融資、・地球温暖化防止の取り組み、・社会的事業への融資 などのそれぞれについて詳細な状況や内容を尋ねるものとなっている。中でも赤道原則のカテゴリ別実施件数やクラスター爆弾製造関連企業への融資状況を質問するという点に厳密さが表れている。翌2009年の質問はカーボン・ディスクロージャー・プロジェクトとその他環境・社会配慮についての項目が追加されれたほかは2008年のものとほぼ同じである。
 メガバンク側は、2004年の質問状に対しては回答した各行はほぼ全ての質問に答えていたが、 2008年の詳細な質問に対しては無回答・非公開が多く見られた。しかし2009年の際は、回答を避ける項目が残るものの説明の文量や任意記載欄の活用からメガバンク側の積極的な回答姿勢がうかがわれる。

 2004年の公開質問を受けた2005年4月の「環境・社会配慮に関するメガバンクへの10の提言」では、国際的な投資原則(当時成立していた「環境と持続可能な発展に関する金融機関声明」と「赤道原則」)への署名、融資事業の温室効果ガス排出量や環境社会配慮に関する取り組み状況の公表、自然や労働環境の観点を核としてのネガティブスクリーニングの導入などが挙げられた。
 この提言の発表の後、三井住友銀行と東京三菱銀行(当時)が赤道原則に署名(両行とも2005年12月に)したこと、並びにみずほ銀行が2005年度よりみずほフィナンシャル・グループとしてのCSRレポートを発行するに至ったことは、この公開質問と提言の影響を示唆する。2004年の公開質問の時点で、東京三菱銀行は赤道原則への署名の予定について無回答、みずほ銀行は環境報告書等の発行についてWebサイト上での記載に代えるとしていたのだ。


 続く2008年の質問状では「融資した企業・事業におけるGHG(温室効果ガス)の計測・公表について」という項目に対して3行の回答に大きく差があることが明確に示され、遅れをとったと指摘されたメガバンクに改善の圧力をもたらしたと考えられる*。

 
  2008年から2009年にかけては、このやり取りから大きな進展が生まれた。
 A SEED JAPANはかねてより日本の大手金融機関から国内外の兵器関連産業に融資がなされていることを問題視してきたが、2008年12月日本政府が「クラスター爆弾禁止条約」に署名したことを契機に、国内のメガバンク3行(三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャル・グループ)に対してクラスター爆弾に関する提言を発表した。これはA SEED JAPANの調査により
この3行から海外のクラスター爆弾製造企業へ融資がなされていることが判明したとした上で、外国の金融機関や政府がこの分野で融資停止・禁止の措置をとっていることにも触れつつ*、クラスター爆弾製造企業に対する投融資方針の開示を提言するものである。*
 この条約署名と提言が行われた翌2009年のA SEED JAPANからメガバンク3行への公開質問状に対し、そのうちの1行である三菱UFJフィナンシャル・グループは、クラスター爆弾製造企業への融資の問題について積極的に対処する方針を表明した。同行は前述の提言を受けてA SEED JAPANの提起した問題を検討しているとし、検討の結果として「投融資方針の開示ではなく、内部における個別融資案件の資金使途チェックの1項目として検討し、一部で実施をしております。*」と比較的具体的に回答している。このことは「邦銀では異例*」、「日本の銀行として先進的な取り組み*」として報道されるに至った。


 しかし依然メガバンク側からの返答には、初期に比べその割合こそ小さくなったとは言え「無回答」・「非公開」の項目が散見される。特にネガティブスクリーニング(質問状上では「ネガティブな事業への融資制限制度」)の導入に関する質問に対しては、3行ともが内容を開示しない自主規定を導入済みと回答するにとどめている。


 以上を総じて、NGO「A SEED JAPAN」の継続的な活動を通し、日本のメガバンクが社会的責任投資への関与を段階的に深めていることが明らかになる。その全体的な傾向は国際的な社会的責任投資の拡大に対応を迫られたことが要因と推察されるが、赤道原則への署名や環境/CSR報告書の発行、投資事業の温室効果ガス測定の有無の点では、公開質問により投資家一般に対し各行の差が明らかにされたことがメガバンク側の対応を促したと読み取れる。また条約成立で国際的に関心が集まったクラスター爆弾についての重点的な質問・提言は、諸外国政府・金融機関での明確な行動を背景として日本のメガバンクに対応の必要性を強く認識させたと考えられる。

 また同時に、日本のメガバンクがポジティブスクリーニングや情報管理の面で漸進を見せつつも、ネガティブスクリーニングに踏み切れない状況があらわになっている。欧米と比較して社会的責任投資に社会運動的な経緯がないことや、一般の人々の間に資産運用への認識がそれほど定着していないことが背景にあると推察されるが、クラスター爆弾の一件を契機として今後メガバンク各行や他の金融機関がどのような対応をするのかが、ネガティブスクリーニング普及の指標となる。

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