2010年05月01日

学士論文 第2章 第2節 各国政府・公的基金

第2章 社会的責任投資の動向
第2節 各国政府・公的基金



EUの欧州戦略*

 EUは加盟国拡大の動きの中で、経済活動と社会の安定成長という課題への対応の一つとして「企業の社会的責任の推進」に取り組んできた*。

 2000年のリスボン特別欧州理事会会合で改正された欧州戦略に、経済・社会の成長の上で産業界が担う役割として「企業の社会的責任」が位置づけられている。この会議は「新テクノロジー及び新たな社会問題等の状況を考慮しつつ、成長、競争及び雇用に関する欧州戦略を見直す*」ことを目的に開催され、経済社会分野の広範な現代的を取り上げた爾後十年の戦略を策定した。これを受け、翌2001年EUは企業の社会的責任についてのグリーン・ペーパー(指針)を公表し、さらに翌2002年欧州委員長を議長としてマルチステイクホルダー・フォーラム*を設置し、EUとして企業の社会的責任を戦略的に追求する体制を示している。

 EUは、21世紀の経済と社会の成長のためには1990年代に支配的であった株主至上主義ではなく企業活動の社会への影響を重視した方向性が必要として、これを多国間の成長戦略として設定した。この動きが後述する欧州各国の社会的責任投資政策に反映され、各国の制度が調えられた。


各国政府*

 英国は2000年7月、年金法を改正し、年金運用機関に対し投資先選定における社会的責任への配慮* について開示することが義務付けられた*。これまで記載対象となっていなかった社会的責任への配慮状況が、運用成績の一部として公表されるようになったのである。この効果は法改正後すぐに表れ、年金基金の約8割が社会的責任投資の要素を取り入れるようになったとされる*。
 英国での事例は他国にも影響を与え、同様の年金制度改正が翌2001年ドイツ(5月)とオーストラリア(8月)で行われた。同年5月フランスでは第1部上場企業に対し年次報告書・財務報告書に環境及び社会的影響に関するデータを記載することを義務付ける法律が成立し、翌2002年に施行された*。
 英国では前述の法改正に続き、2001年10月にブレア首相(当時)が主要企業に環境報告書の発行を呼びかけ、続く11月には政府が環境報告書作成ガイドラインを発表し、環境分野を軸として情報開示による社会的責任投資の環境整備がなされた。*
 これらは、政府が金融機関に対し法的拘束力をもって社会的責任投資をさせるのではなく、社会的配慮の面で相互に比較・競争可能な枠組みを設けることで発展を促す政策である。これにより、英国では個人投資家が主体だった社会的責任投資が機関投資家中心に転換した。

 他方、より直接的に政治的改革によって社会的責任投資の方針を設ける例もある。スウェーデンでは2001年の年金改革により、年金基金を対象として投資判断に環境社会評価を組み込むことが定められた*。ノルウェーは2004年政府年金基金法・同規則に基づき ・環境と社会の持続可能な発展のもとで経済的利益を追求すること、・非倫理的行為に加担しないこと を定めた倫理ガイドラインを策定している*。


公的基金*

 欧米諸国の公的年金基金や政府基金は、機関投資家として国連の責任投資原則に署名している。そのうちの代表的なものには、アメリカカリフォルニア州公務員年金基金、フランスの国民年金、ノルウェーの政府年金基金や石油収入基金、ニュージーランドの年金基金などがある*。前述のようにスウェーデン*・ノルウェーは法律に基づく基金運用指針を持ち、フランスは国から委託を受けた運用機関として社会的責任配慮の投資原則を備えるという形で社会的責任投資を実践している*。
 公的基金のあり方は各国でさまざまであるが、水口(2009)は社会的責任投資推進の類型として ・基金の自主的判断に基づく導入、・(前述英国の例のように)投資方針開示制度による推進、・(前述ノルウェーの例のように)根拠法における明示的規定 の3つを挙げる*。これら公的機関が運営する基金は、大規模で中長期的な観点での運用を行いやすく、短期売買される金融商品などと比較して高い投資利益が求められないことが社会的責任投資化を後押ししていると考えられる。


 以上総じて、法律や制度改正による政治的決定によるものはもとより、公的機関として国民から資金を受託する基金が社会的責任投資を運用方針に組み込むことは、その価値が各国で公的に認められていることを表していると言える。経済的利益とともに環境・社会的影響を重視するという、当初は金融機関や投資の専門家の間で持たれていた価値認識が、政策決定者、年金加入者ないし国民へと一般社会に浸透していることを示す。

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